焼き鳥からうどんへ“華麗”にシフト トリドールが戦略転換できたワケ

 飲食店コンサルタントの三ツ井創太郎です。今回は、飲食企業の「戦略転換」について解説したいと思います。

企業は時によって大きな戦略転換に迫られます。本年に予定されている消費増税やオリンピック後の景気動向、人材不足など、経営環境の不透明な中で一つの事業、または企業全体の戦略転換を考えている企業も多いかと思います。今回はこうした中で過去に時代の流れや顧客ニーズを正しく捉え、上手に戦略転換を行った企業の成功要因を分析することで、これからの不透明な時代を生き抜くための戦略転換のルールを導き出していきたいと思います。

丸亀製麺の前身は焼き鳥店

 みなさんも一度は利用したことがあるであろうセルフうどん店の「丸亀製麺」。今では全国に展開するうどんチェーンとして知られていますが、丸亀製麺の前身は焼き鳥店であることをご存じですか?

丸亀製麺を展開するトリドールホールディングス(HD)は1985年8月、兵庫県加古川市に焼き鳥居酒屋「トリドール三番館」として8坪のお店からスタートしました。

ここでトリドールHDの規模を確認するために業績を見てみましょう。

トリドールHDは売上高が1165億円、営業利益が76億円となっています。セルフうどん店としては店舗数、売上高ともに日本一であり、国内で上場している外食企業においても15位の売り上げ規模となっています。

女性向けの焼き鳥居酒屋

 たった8坪の焼き鳥店として創業した同社が、どのような戦略転換を行いながら国内大手外食チェーンにまで上り詰めていったのかを分析していきます。

85年8月、兵庫県加古川市に8坪の焼き鳥居酒屋「トリドール三番館」として創業し、順調に3店舗まで増えていったトリドールは、それまでの男性サラリーマンなどをターゲットとした居酒屋風の焼き鳥店から最初の戦略転換を図ります。若い女性をターゲットとした洋風でオシャレな焼き鳥店にシフトしたのです。この戦略転換によって、当時空白マーケットであった「若い女性が入れるオシャレな洋風焼き鳥店」を開拓できました。

こうした時代のニーズ、つまり「時流」に乗る戦略を「時流適応戦略」と言います。しかし、時流適応戦略はすぐに類似業態が出現するというデメリットもあります。さらに、流行に敏感な若い女性客をターゲットとすることは、業態寿命が短い=飽きが早いという危険性もあります。

当初は繁盛していたトリドールの洋風焼き鳥店も、徐々に客数が減少していきます。同社はこうした教訓などから、一過性の時流にとらわれない「地域のお客に愛されるお店づくり」へと戦略転換することにしました。

ファミレスタイプの焼き鳥店へ

 そこで、創業から14年後の99年に地域の家族客が気軽に来店できるファミリーレストラン型の焼き鳥店「とりどーる」を出店します。日本人にとってなじみ性が高い焼き鳥、唐揚げ、釜めしという3大カテゴリーを主力商品に据え、100席以上の大型店で臨場感のあるオープンキッチンなどを武器に大繁盛しました。2008年には30店舗近く出店しています。現在でも郊外店が中心ながら、1店舗平均で年商1億2000万円を売り上げる繁盛モデルとなっています(丸亀製麺の1店舗平均年商は1億1400万円)。

同社はこのファミリーレストラン型焼き鳥店「とりどーる」の展開により、外食企業として大きな成功を手に入れました。しかし、順調に見えた同社にとって経営を揺るがす大きな出来事が起きます。それは04年から世界的に大問題となった鳥インフルエンザの流行です。こうしたネガティブなニュースに対して敏感な客層であるファミリー客をメインターゲットとする「とりどーる」も当然ながら大きな影響を受けて売り上げが低迷します。

うどんへの転換

 そこで同社は、鶏肉を主力食材としない新たな業態の展開に戦略転換します。それがみなさんご存じのセルフ式うどん店「丸亀製麺」です。

創業者である粟田貴也氏が父の故郷である香川県丸亀市を訪れた際に、できたてのうどんを食べさせる「製麺所」業態が地域の人々に愛され大繁盛している様子を見て、00年に「丸亀製麺加古川店」を開業しました。

同社はそれまでの成功モデルであったファミリー焼き鳥店から一気にうどんチェーンとしての出店攻勢をかけ、1号店をオープンしてから6年後の06年に東証マザーズに上場。さらにその2年後の08年には、東証一部に上場します。

丸亀製麺が繁盛した理由は3点あります。

売り場力

丸亀製麺では製麺所の臨場感を再現するために、店舗に製麺機を設置しています。各店に製麺機を設置すると大きなコストがかかるため、通常のチェーン店ではこうした設備投資を嫌います。しかし、丸亀製麺ではこうした設備投資をあえて行うことで売り場に臨場感を演出すると同時に、他社がまねできない魅力=模倣困難性を高めています。

商品力

先ほどお話をした製麺機にも関係していますが、丸亀製麺ではうどんのクオリティーに徹底的にこだわり「打ちたて」「茹でたて」「作りたて」を提供しています。小麦も国産小麦を100%使用するなど、他のチェーンから見ると「コスト増」「非効率」なことをあえて実行して他社がまねできない商品力を実現しています。

価格力

そして、最後に価格戦略です。臨場感のある売り場や素材、調理方法のこだわりなどで付加価値を高めつつも、商品の最下限価格は290円(釜揚げうどん並など)という低価格に設定されています。一方、丸亀製麺は100~150円の天ぷらやおむすびなどのトッピングをカウンター上に多数陳列することで、ついで買いを狙っています。天ぷらとおにぎりを1品ずつ追加すると、結果的に客単価は500円を超えます。このように、お客が自分の予算感やお腹の具合に合わせてメニューをアレンジできるため、幅広い利用動機の客層を獲得できます。

収益性を高める工夫

 丸亀製麺の大成功は売り上げ規模の拡大だけではなく、同社の収益性も高めました。ここでトリドールHDの決算資料などを分析していきます。

同社のセグメント(業態別)の原価率を見ていきます(原価率については、期末、期首棚卸額が加味されていないため、正確には仕入率となります)。

これを見ると以前の主力業態であった「とりどーる」の原価率が30.6%であるのに対して、「丸亀製麺」の原価率は25.6%と5%も低いことが分かります。「たかが5%」と思われる方もいるかもしれませんが、年間合計の売り上げが900億円を超える丸亀製麺における5%は45億円になります。

さらに決算書を読み進んでいくと、時代の変化に合わせて戦略転換を行ってきた同社の次の戦略が垣間見えてきます。地域別の店舗数の伸び率を分析しましょう。

すると、海外店舗数の伸び率に驚かされます。17~18年の1年間で、194店舗を出店し(M&Aなども含む)、対前年伸び率は1.5倍にもなります。今後、人口減少などで成長が懸念される国内外食マーケットを見据え、海外出店戦略を強めています。

一方、国内の人材不足に対して、丸亀製麺ではシニアスタッフを積極採用するといった対策にいち早く着手しています。

このように、時代の流れを踏まえた上で、その事業フェーズにおける経営リスクに対しても戦略的、かつスピーディーな戦略転換で適応していく経営姿勢が同社の成長や強い経営基盤の一因となっていると言えます。

https://headlines.yahoo.co.jp/hl?a=20190306-00000007-zdn_mkt-bus_all&p=1

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