株式会社エムアウト 田口 弘氏 「起業に必要な考え方」

日常生活

マーケットにとっての利益を考える

ベンチャー企業のオーナーの方々のプレゼンを聞いていると、マーケットのことなど何も考えていらっしゃらないなと思ってしまう人が多いんですよ。こういうふうにして儲けるんだという話はいっぱいなさるけれども、それがマーケットにとってどれだけメリットのあることなのかという話はほとんど出てこないんですよ。

そもそも企業というものは、マーケットにメリットを提供するからこそ存在理由があるわけですよ。お客様は何も企業家が金持ちになるために物を買ってくれているわけじゃないですからね。自分達にメリットがあるからこそ買ってくれるので、それは当たり前の話なんですけど、今のベンチャー経営者でそのように考える人はひじょうに少ない。したがって、成功の確率も低いんでしょうね。

「やっぱりマーケットの利益を考えなきゃいけないんですね」ということに2億円も3億円も使ってようやく気がつくのですね。それは初めての経験だからしようがないところはあるかもしれないでしょうが、これだけベンチャー企業が失敗を重ねていっても、ベンチャーキャピタルでそういう失敗の事例やノウハウを蓄積してるところがどこにもないんです。

時価総額1千億円以上の企業を作る

われわれは少なくとも時価総額が1千億円以上の一部上場企業を作ることを目標としています。これまで見てきて、ベンチャー企業のほとんどがスモールビジネス狙いなんですよ。まず、目先の利益を取りに行くわけですから。時価総額1千億円以上の上場企業になる確率は1000に1つか2つという話になってしまうんですね。エムアウトでは最終的には100%になるような仕組みにしたいのだけれども、とりあえず目標としているのは、2つに1つ、つまり50%。

よく例に挙げるのが、結婚式。一生に1回のことだから自分がやるのじゃなくて、専門家に任せたほうがいい。そこでブライダル産業がすごく発達したわけですよ。起業もこれは一生に1回あるかどうかということですから同じです。また、ブライダル産業が結婚式をトータルで考えてくれるように、起業を総合的に考える起業産業があっていいだろうと。ところが、現状はベンチャーキャピタルはお金だけ、コンサルタントはプレゼンテーションだけ、人材会社は人間の問題だけ、法律事務所はコンプライアンスだけ、会計事務所は経理だけと、そういう提供の仕方しかされていません。ベンチャー企業側に立ってトータルで考えてるところがひとつもないのが現実です。

トップがすぐに交代できる体制

だからそれをやろうと。つまり「起業専業企業」。起業専業企業になってわかってきたことは、ベンチャーは完全に反面教師だということです。ベンチャーのやっているのと同じことをやっていると1000分の1の確率になってしまうわけですから。それじゃ、飯は食えない。彼らのやってないことをやらなきゃいけない。

たとえば、ベンチャー企業はだいたいがワンマン経営ですね。だから社長がおかしくなると会社自体もおかしくなっていく。そういう会社は社長が成長した分だけしか大きくなれない。だからワンマンマネージメントじゃなくて、チームマネージメントじゃなきゃいけない、あるいはグループマネージメントじゃないといけないと言っています。トップクラスっていうのは必ず3人から5人のチームでやりなさい。しかもトップがだめだとすぐ交代できる体制を作っていかなきゃいけないのです。

ベンチャーは大企業ができないことを

僕がベンチャーの経営者によく話すことは、ベンチャーが有利なのは何かというと、何にも持っていないことが唯一有利な条件だと言ってるんです。大企業は優秀な人員をたくさん持ってはいるけれど、その反面いろいろなしがらみから何から不必要なものもすべてみんな抱えてるわけですよ。そこでベンチャーは大企業のできないことをやらなきゃいけないんだ、とね。

大企業はすでにできあがった、何千億円、何兆円というビジネスを持っているわけです。だから、どうしてもそちらが中心になるんです。新規事業が許されるのも、本体にいい影響を与える範囲においてであって、ここを否定するようなものはひとつも出てこないんですよ。

エムアウトのテーマのひとつは、まず大企業が持っている有利な条件を備えたプラットフォームを作ることなんです。情報はもちろん、とくに人材ですね。ここに有望な新規事業のシーズを載せれば、新しいビジネスが確実に成功する仕組みができるだろうということを今やっているわけです。

マーケットアウトからソーシャルアウトへ

マーケットアウトを推し進めていくと、ビジネスそのものは社会貢献につながっていくはずなんです。たとえばトヨタの場合、多大なメリットを社会に対して提供してるわけです。しかし、同時に公害をはじめ種々のデメリットも社会に与えている。このバランスが、利益が出てるうちはいいけれども、公害が増大したり、デメリットがメリットを超えてくるとその企業は発展しなくなるでしょうね。

お客様がトヨタの車を買ってくれるということは、トヨタへ一票投じているのと同じことですからね。利益が増えれば増えるほど、その期待に応えていかなきゃいけない。だから、企業の規模が大きくなればなるにつれて、マーケットアウトはソーシャルアウトへと発展していくはずなんです。

社会のためにならないものは淘汰される

マーケットの立場でものを考えるということであれば、われわれエムアウトの利益とは、マーケットにとって必要なものを再生産するための必要経費であるというふうに理解しなきゃいけないことになります。

われわれが得た利益は、それを使ってより付加価値の高いものを作りだし、ふたたびマーケットにお返ししていくべきものとなります。そうすることでまた、より大きな経費を負担していただけることになります。そういうことの循環ですね。

だから企業の経営者が、自分が儲けた金だからどう使おうが勝手じゃないかっていうのは間違っていることなんですね。社会のためにならないものは、いずれ淘汰されていきます。

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